提供:日本大学医学部附属板橋病院 制作:板橋経済新聞編集部
日本大学医学部附属板橋病院の医療専門家が地域の皆さまに役立つ健康情報を発信。健康的な生活をサポートすることで、地域全体の健康状態の向上を図ることを目的としています。
今回は「しこり」をテーマに、日本大学医学部附属板橋病院 血液・腫瘍内科 三浦勝浩先生に話をしていただきました。

皆さんは、ふとした瞬間に首筋や脇の下、足の付け根などに「しこり」を感じたことはないでしょうか。私たちの体には、ウイルスや細菌などの外敵から身を守るための免疫システムとして、全身に「リンパ節」という関所のような組織が張り巡らされています。風邪を引いたときにリンパが腫れるのは体が(外敵と)戦っている証拠であり、多くの場合は自然に治まります。
しかし、痛みがないのにしこりが大きくなったり、発熱や寝汗、体重減少といった症状を伴ったりする場合、それは単なる炎症ではなく「悪性リンパ腫」という血液のがんである可能性があります。悪性リンパ腫は白血病などと同じく血液細胞の腫瘍ですが、近年、その診断と治療法は劇的な進化を遂げています。
今回は、知っているようで知らない「悪性リンパ腫」の最新事情と、診断・治療において患者さんが知っておくべきポイントについて、当院の取り組みを交えながら解説します。

悪性リンパ腫とひとくくりに言っても、実はその種類は非常に多岐にわたります。世界保健機構(WHO)の分類では、病気の進行スピードや細胞の性質によって細かく分類されており、その数は百種類以上にも及びます。
この「分類」こそが、治療の運命を左右します。年単位でゆっくり進行する「低悪性度」、月単位で進む「中等度悪性」、そして週単位で急速に進む「高悪性度」があり、それぞれで適切な治療法が全く異なるからです。低悪性度であれば経過観察で済むこともありますが、中・高悪性度の場合は一刻も早い治療開始が必要です。
ここで重要になるのが「病理診断」です。しかし、悪性リンパ腫の病理診断は非常に複雑で難解なため、多くの一般病院では外部の専門機関に診断を委託(外注)しているのが現状です。これには正確性が保たれるメリットがある反面、結果が出るまでに時間がかかり、治療開始が遅れるというデメリットも潜んでいます。
当院では、このタイムロスをなくすため、病理医と臨床医が院内で密に連携する体制を取っています。組織免疫学的評価や細胞遺伝学的検査などを自施設内で迅速に行うことで、確定診断までの時間を大幅に短縮しています。また、診断が難しい症例であっても、全国の病理診断ネットワークを通じてコンサルトを行い、常に正確かつ迅速な診断を追求しています。「しこり」に気づいたとき、診断能力とスピードを兼ね備えた医療機関を受診することは、早期治療への第一歩と言えるでしょう。

かつて抗がん剤治療といえば、「激しい副作用に耐えるもの」というイメージが強かったかもしれません。しかし現在の悪性リンパ腫治療は高い治療効果と患者さんの生活の質(QOL)の両立を目指す時代へと変化しています。
悪性リンパ腫はあらゆるがんの中でも特に抗がん剤や放射線治療が効きやすい病気です。1970年代から半世紀にわたり、ホジキンリンパ腫に対するABVD療法や、非ホジキンリンパ腫に対するCHOP療法といった標準治療が確立され、多くの患者さんが治癒を得られるようになりました。吐き気や脱毛、白血球減少といった副作用は伴いますが、現在はそれらを抑える「支持療法」が格段に進歩しています。吐き気止め一つを取っても非常に効果的な薬が登場しており、副作用をコントロールしながら仕事や学業を継続して治療を受ける患者さんも増えています。
また、治療中の外見の変化(アピアランス)に対するケアも重要です。当院では専門の看護師によるアピアランスケア相談や、高品質なウィッグの紹介などを通じ、脱毛などによる精神的な負担を軽減し、前向きに治療に取り組める環境づくりを行っています。

日本社会の高齢化に伴い、悪性リンパ腫と診断されるご高齢の患者さんも増加しています。ここで問題となるのが「治療強度」と「安全性」のバランスです。標準治療であるR-CHOP療法(リツキシマブ併用CHOP療法)は強力な効果がある一方で、高齢者には心臓や身体への負担が大きい場合があります。そのため、一般的には薬の量を減らして投与されることが多いのですが、減量は安全性を高める代わりに再発のリスクを高めてしまうというジレンマがあります。
そこで私たちは患者さん一人ひとりの体力や合併症の有無を慎重に見極め、可能な限り治療強度を維持する工夫を凝らしています。当院における高齢者悪性リンパ腫の治療成績はこうした個別の最適化によって良好な結果を得ており、その成果は欧州血液学会などの国際的な場でも高く評価されました。さらに近年では新薬が次々と登場し、治療の選択肢は広がっています。年齢にかかわらず、最新のエビデンスに基づいた最適な治療法を模索することが健康寿命を延ばす鍵となります。

最後に、治療を受ける「場所」の変化についてお話しします。日本では長らく化学療法の初回導入は入院して行うのが一般的でした。これは入院費が欧米に比べて安価であることや、外来化学療法の体制が未成熟だった時代の名残とも言えます。しかし、欧米では外来での治療がスタンダードです。
入院生活は安心感がある一方、仕事や家庭から離れなければならず、社会生活への影響は小さくありません。私たちは、患者さんが「普段通りの生活」を送りながら治療できるよう、外来化学療法の導入を積極的に進めています。これを可能にしているのが、専門職によるチーム医療です。薬剤師外来による服薬指導、看護師による日常生活のアドバイスなど、入院治療と同水準のサポートを外来で提供しています。特に、リツキシマブという薬の初回投与時に起こりやすいアレルギー反応(インフュージョンリアクション)に対しては、薬剤師主導の研究により、外来でも安全に実施できる独自の投与プロトコールを確立しました。これにより、入院を必要としない治療導入が可能となり、多くの患者さんやご家族から「生活のリズムを崩さずに済む」と好評を頂いています。
日本大学医学部附属板橋病院 血液・腫瘍内科 三浦 勝浩

本プロジェクトは、高齢化社会において地域社会への健康情報の発信を通じて、地域全体の健康水準を向上させることを目的とした社会実装型の取り組みであり、これによりSDGsの達成に寄与することを目指しています。高齢者の増加に伴い、慢性疾患や生活習慣病が広がる中で、医療資源の圧迫と医療費の増大が深刻化している現状において、地域社会での健康増進と予防医療の推進が不可欠です。これにより、SDGsの目標である「全ての人に健康と福祉を」の達成に向けた具体的なアクションを展開することを目指しています。
(転載・取材に関するお問い合わせ先:med.kouhou@nihon-u.ac.jp)
※お届けしている健康情報は一般的な知識の提供を目的としており、診断や治療を目的としたものではありません。健康に関する具体的な相談は、必ず医師や専門家にご相談ください。