成増アクトホール(板橋区成増3)で1月19日、説経節(せっきょうぶし)の三代目若松若太夫(わかまつわかたゆう)さんと、日本舞踊家の坂東冨起子(ふきこ)さんが共演する「説経浄瑠璃鑑賞会」が開かれる。
説経節は、鎌倉時代に僧侶が庶民に向けて教義を説いた「説経(教)」をルーツに、歌舞伎や演劇の演目として現代に伝わる「さんせう太夫」や「小栗判官」「石童丸」などの物語を、室町時代の頃から三味線の音色と共に語り継いできたとされる「語り物芸能」の一つ。
今年のNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」にも登場する講道館柔道の創始者・嘉納治五郎や、村井弦斎、渋沢栄一ら名士の庇護(ひご)を受け、大正から昭和の戦前にかけて説経節の隆盛を中興の祖として支えた初代若松若太夫の没後70年だった昨年は、三代目若太夫さんが1998年に「若松若太夫」の名跡を襲名してから20周年。2019年は、公演に感銘を受けて二代目に入門した年から丸30年の節目となる。
毎年1月の「説経浄瑠璃鑑賞会」では、三代目若太夫さんによる説経節の独演と、ほかの文化財保持者や伝統芸能継承者との共演が目玉となっている。今回は、若太夫さんの独演では「しんとく丸 -愛馬別れより乙姫対面-」を披露。坂東流の日本舞踊家で板橋区在住の坂東冨起子さんをゲストに迎えた説経浄瑠璃では、紀州道成寺(どうじょうじ、和歌山県)に伝わる安珍・清姫(あんちん・きよひめ)物語を基にした「日高川入相櫻(いりあいざくら)」から「恋の闇路清姫怨霊の段」を披露する。
2人の初共演は2017年11月、文化庁芸術祭参加作品として上演した「坂東冨起子の会」による唄語りの舞踊劇「鶏娘(とりむすめ)」で、坂東さんが若太夫さんに出演を依頼して実現したという。坂東さんによれば、「歌舞伎には説経節をオリジナルとする演目がいくつもある。『鶏娘』も『さんせう太夫』から派生したキャラクターで、基の話を知らない人でも物語が理解しやすくなればと考えて、私から若太夫さんに依頼して『さんせう太夫』の一部を舞踊劇の前に語っていただいた」という。同作は芸術祭の全舞踊部門の得票で第2位、日本舞踊部門では第1位となった。
今回の共演に当たり、「日高川は通常、説経節と人形芝居の共演で演じられることが多い。人形では伝わりやすい清姫の変化(へんげ)などを表現するため、日本舞踊の素踊りに、面を使ったオリジナルの演出を加えた新しい試みを若太夫さんに提案した」と坂東さん。
若太夫さんは「日高川は、三代目襲名の時にも披露した演目。女の情念を描いた展開が激しい作品で、坂東さんの舞踊と合わせて若い世代でも十分に楽しんでもらえるはず。1月の鑑賞会は、400人を超える大勢の人に説経節に触れてもらい、伝統芸能のコラボレーションを堪能してもらう絶好の機会」と話す。上演前には、若太夫さんと坂東さんによる作品解説を交えたトークも行われる。
13時開場、13時30分開演。定員は450人。入場無料。