板橋区役所からほど近い、板橋宿不動通り商店街にある銭湯「花の湯」(板橋区板橋3)が3月30日、創業から107年の歴史に幕を下ろした。
男湯と女湯を隔てる壁に貼られた、開店当時から残る色鮮やかなスペインタイル(2010年撮影)
創業は1910(明治43)年。唐破風(からはふ)の押し出しがある伝統的な宮造りの建物は1967(昭和42)年の建て直し時にしつらえたもので、旧中山道第一の宿場・板橋平尾宿として江戸期に栄えた場所で大正時代から続く商店街で、明治期から今なお現役で営業を続けてきた老舗銭湯として地域住民に長年愛されてきた。
井水(せいすい=井戸水)をイオン交換する軟水装置が1990年に導入されて以降、「美肌効果の高い超軟水風呂のある銭湯」としての話題性が加わり、区外から銭湯マニアが訪れることも少なくなかったという。
同湯の長年のファンだという40代女性客は「普通の軟水ではなく、ぬるぬるした肌触りの超軟水が話題になった。シャンプー後にシャワーで流しても、泡が洗い落とせてないんじゃないかと勘違いするくらいで、湯上がりの肌はすべすべになる」と話し、「コミュニティースペースやギャラリーとしてこの場所を残してほしいくらい思い出深い場所。帰り際におかみさんがくれるキャラメルがこれで味わえなくなると思うと切ない」と話す。
閉店と聞いて十数年ぶりに立ち寄ったという60代男性客も「近くの工場に住み込みで働いていたころによく足を運んだ。今は一人暮らしでも風呂付き賃貸が当たり前だし、商店街も大手系列店に客を取られてにぎわいも減ったと聞いていただけに寂しい」と名残惜しそうに話していた。
「番台のばばあ」と名乗り親しまれた同湯おかみは「10歳から番台に座って父親の手伝いをしてきた」と言い、閉店の理由については、「かれこれ働いて75年。体が悪くなって思うように動けなくなってきたし、空調や軟水装置などの設備も故障が多く、100年以上続いてきた店だが廃業を決めた」と寂しそうにほほ笑む。
「廃業を決めて貼り紙を出したら、連日たくさんの人が来て混雑してしまい、ゆっくり湯船に漬かれないこともあった。最後の日は、ごひいきの常連さんや昔なじみの人たちに浴槽や休憩所でくつろいでもらえたら」とおかみ。ひな壇が飾られた休憩所では、湯上がりにマッサージチェアや座椅子に腰を下ろして思い出話にふける常連客らの姿があった。
地域交流の場にするなど、なんらかの形で老舗銭湯のスペースを再活用できないかという利用者の声もあり、閉店後の動きにも注目が集まっている。