日本人冒険家の活動をサポートする「人力チャレンジ応援部」事務局が1月17日、単独徒歩による「しらせルート」での南極点到達を目指していた板橋区在住の冒険家・阿部雅龍さんの踏破断念の続報を伝えた。

110年前に撮影された「大和雪原」に立つ白瀬矗（写真中央）と探検隊

　ウェブサイトとSNSを通じ阿部さんの現在の様子を発信している同事務局によると、阿部さんとは衛星電話で連絡を取り、心身の健康を確認したという。

　阿部さんは秋田県出身。南極大陸の冒険は今回が2度目。前回は2018（平成30）年11月23日に南極大陸に上陸し、日本時間の2019（平成31）年1月17日早朝に日本人初となる「単独徒歩によるメスナールートでの南極点到達」に成功。この時の冒険は長年目標としていた「しらせルート」攻略を実現させるための予行演習と実績作りだとし、同年中の南極再上陸と偉業達成に向けたトレーニングや資金集め、南極での民間向け小型飛行機チャーター会社との交渉を進めるも、世界的な新型コロナウイルス感染拡大の影響で2年間実現できずにいた。

　「しらせルート」の名称は、阿部さんと同じ秋田県出身の冒険家で、日本人で初めて南極を探検した白瀬矗（のぶ）に由来する。白瀬は1912（明治45）年1月16日に南極大陸に上陸し、隊員と共に犬ぞりで南極点到達を目指すも食糧不足から断念。同年1月28日に到達した最終地点の一帯を「大和雪原（やまとゆきはら）」と命名して隊員と日本へ引き返した。大和雪原がある「ロス棚氷（たなごおり）の東岸は1961（昭和36）年にニュージーランドの南極地名委員会によって「白瀬海岸（Shirase Coast）」と命名され、大和雪原は2012（平成24）年に白瀬隊南極探検100周年を記念して「Yamato Yukihara Camp Site」の名称で地名登録されている。

　阿部さんは今回、2021年11月10日に経由地の南米チリからフライトし、南極のベースキャンプに到着したことを日本時間11月15日深夜に衛星電話回線を通じて報告。白瀬隊の業績を引き継ぐ目的で南極点到達を目指すスタート地点を大和雪原とし、同18日に同地から6キロ離れた地点にベースキャンプから小型機で降り立つと、白瀬隊の到達から110年間誰も足を運んでいないとされる同地に到着。白瀬隊の写真をまねて日の丸の国旗と三角旗立てて黙とうする写真を撮影してから、単独徒歩の孤独な冒険が始まった。

　「人力チャレンジ応援部」事務局は、衛星電話回線を使って1日1回の頻度で送られてくる短い文章と写真で構成された阿部さんの冒険リポートをウェブサイトに転載。ベースキャンプで予定ルートの現況を検証した際に想定していた以上の大きなクレバス（氷河上の深い割れ目）がルート上にできていることが判明し、クレバスを避けるルートに変更して100キロメートル以上距離が伸びてしまったこと。南極点到達後に小型飛行機でピックアップしてもらうためのタイムリミットが定められていて、ソリを1日22キロ引いて59日間で踏破しなければならないこと。氷上の雪が乾いていて100キロ近い荷物を載せたソリが滑（すべ）りづらく、1時間に1キロメートルしか進むことができないことなど、悪戦苦闘の様子が連日伝えられていた。

　日本時間の1月3日に一番の難関とされる南極横断山脈のふもとにたどり着き、単独徒歩では誰も達成していない山登りを開始。ベースキャンプ側とは定期交信でタイムリミットまでにゴールできないことから冒険中断か続行かの協議が行われ、途中に悪天候に見舞われての足止めもあった中、スタートから54日目となる日本時間1月11日のリポートで「現状では南極横断山脈は極めて難しい」との双方の判断から今回のチャレンジを断念すること、約50キロメートル下山してプロペラ機が着陸可能な平らな雪原がある場所で現地サポートチームと合流することなどが伝えられた。

　クレバスの多い雪山の下山であることや、下山途中さらなる悪天候で2日間テントを張ってしのいでいたことなどが1月13日に伝えられたまま続報がなく、阿部さんの状況が心配されていた16日、衛星電話で阿部さんと連絡が届き、サポートチームと合流して南極点の基地に到着、健康状態は良好であること。南極で天候が改善されるのを待った後、経由地のチリへ渡航することなどが事務局スタッフによって報告された。

　オミクロン株の感染拡大による足止めも予想されるが、各国のルールに従った入国手順を経て、現時点では2月上旬の帰国を目指すという。