提供:日本大学医学部附属板橋病院 制作:板橋経済新聞編集部
日本大学医学部附属板橋病院の医療専門家が、地域の皆さまに役立つ健康情報を発信。健康的な生活をサポートすることで、地域全体の健康状態の向上を図ることを目的としています。
今回は「未破裂脳動脈瘤(りゅう)」をテーマに、脳神経外科専門医(日本脳神経外科学会認定)・脳血管内治療専門医(日本脳神経血管内治療学会認定)児玉智信先生に話をしていただきました。
2023年5月1日より日本大学板橋病院にて勤務しております児玉智信と申します。私は、脳外科指導医、脳血管内治療指導医、脳卒中指導医として、脳卒中救急医療に長年従事してきました。本稿では未破裂脳動脈瘤に対する考え方について紹介します。
脳ドックを受診したり、頭痛が続くために頭部MRI検査を実施したりすると未破裂脳動脈瘤が見つかることがあります。その頻度は意外と多く、約3%~6%の方に脳動脈瘤が1カ所発見されると言われています。では、脳動脈瘤が見つかれば直ちに手術しなければならないのでしょうか? もちろん、そうではありません。特に5ミリ以下の動脈瘤に関しては、年間破裂率が0.7%以下と非常に低く、直ちに治療を行う必要はないとされています。近年の研究では、薬物療法による改善の可能性も報告されています。生涯を通して脳動脈瘤が破裂することがなければ、それは単なる血管の形であると考えていいのかも知れません。
動脈瘤の形状がいびつであったり、ブレブと呼ばれる突出を伴ったりしている場合は注意が必要です。さらに、未破裂脳動脈瘤を長期間観察していると、約10%~15%のケースで動脈瘤が徐々に大きくなり、破裂のリスクが高まることが分かっています。このような場合には、破裂の確率が10倍以上に増すともいわれており、状況によっては早期の手術が必要になる可能性が高いです。一度、動脈瘤が破裂するとクモ膜下出血を引き起こし、その結果、6割近くの方が命を落とすか、寝たきりの状態になるリスクを抱えます。こうした深刻な事態を避けるためにも、状況に応じて手術を検討しなければならない場合もあります。
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ただし安易に、「脳動脈瘤があるということは、爆弾をかかえているような状態だから、すぐに爆弾処理しなければいけません。手術しましょう」という説明には同意しかねます。手術を受けるとなると、仕事を休むだけでなく、後遺症や場合によっては生命の危険も伴うことが考えられます。
未破裂動脈瘤が破裂すると死亡率は非常に高く、予防的な手術でも合併症のリスクはゼロではありません。このような中で、手術をすべきかどうかという決断は非常に重要です。患者さんの疑問に真摯(しんし)に向き合い、CTやMRIを用いた厳密な評価を行い、定期的な画像検査を続けることで、その疑問にしっかりと答えられると考えています。
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では、ひとたび脳動脈瘤が破裂してクモ膜下出血になってしまった場合は、どのように対応すべきでしょうか? 脳動脈瘤が破裂した際の痛みを、よく「バットで殴られたような痛み」と表現されることがありますが、実際には必ずしもそのような強烈な痛みが伴うわけではありません。しかし、過度に安心してはいけません。脳動脈瘤が指摘された方は、万が一に備えて緊急時の病院の所在を把握しておくことが重要です。
緊急時には、365日24時間態勢で緊急カテーテル検査などを行える病院への搬送が不可欠です。普段から、かかりつけ医を確保し、定期的な受診を心がけることが、万一の時に備える最善の策となります。
日本大学医学部附属板橋病院 脳神経外科 児玉 智信先生
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(転載・取材に関するお問い合わせ先:med.kouhou@nihon-u.ac.jp)