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郷土資料館で文化財講座 「理研板橋分所」をひもとく新資料や日記も紹介

物理学者・仁科芳雄の業績を解説する杉山宗悦さん(右奥)

物理学者・仁科芳雄の業績を解説する杉山宗悦さん(右奥)

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 板橋区教育委員会の学芸員・杉山宗悦(そうえつ)さんによる文化財講座「宇宙線と手仕事と 理研板橋分所のすべて」が5月18日、板橋区立郷
土資料館(板橋区赤塚5)で開かれた。

アメリカ国立公文書館の収蔵資料調査で入手した理研板橋分所の周辺地図なども公開

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 同講座では、2017(平成29)年に国の史跡に指定された「陸軍板橋火薬製造所跡」(板橋区加賀1)と、空襲で施設の大部分が被災したGHQ管轄下の1946(昭和21)年8月に同地へ移転してきた理化学研究所(以下、理研)板橋分所の歴史などを紹介。第1部は「理化学研究所と宇宙線研究」と題して、ヨーロッパ留学を通じてコペンハーゲン大学ニールス・ボーア研究所で素粒子物理学を学び、自由に議論し合えるコペンハーゲン精神を培った物理学者・仁科芳雄博士率いる仁科研究室の足跡や、世界で2番目の長さという1947(昭和22)年から1998(平成10)年まで51年間に及ぶ宇宙線観測の研究について解説。陸軍からの委託を受けて原子力・原爆開発に取り組んだとされる「ニ号研究」や、GHQによる財閥解体で財団法人の解散を余儀なくされた理研を、「株式会社科学研究所」を設立してけん引した経営者としての業績にも言及した。

 第2部は「研究者の手仕事」として、宇宙線研究室の主任研究員として理研板橋分所で約40年勤めた故・和田雅美さんが長年書き留めた研究日記から、株式会社科学研究所の営利事業として「ペニシリン製造か、宇宙線研究のみに従事するか」苦悩していた記述を取り上げたほか、仁科記念財団や理化学研究所記念資料室提供の収蔵写真の撮影場所を現在の旧理研板橋分所内部の撮影写真から特定した取り組みなどにも触れた。

 講座を通じ、杉山さんは「板橋の産業の原点として、仁科博士ら仁科研究室による日本の宇宙線研究の始まりなど理研板橋分所の活動の歴史をひもとき、客観的に物語っていく必要がある。アメリカ公文書館の収蔵資料調査で見つかったGHQ統治下の資料や、長期にわたって板橋分所で宇宙線の連続観測に情熱を注いだ和田先生による約40年分の日記の調査を含め、史跡公園や産業ミュージアムの公開に向けた準備に努めたい」と話す。

 「板橋区史跡公園(仮称)」のグランドオープンは2029年を予定し、理研板橋分所の旧建物跡は「産業ミュージアム(仮称)」としての公開に向けた企画整備を進めている。

 区立郷土資料館で現在開催中の企画展「工都キャラバン ver.3 科学研究 コズミック!線つむぐ理研板橋分所」では、今回の講座内容を含めた理研板橋分所の取り組みなどをパネルで解説。併せて、過去に区立中央図書館(板橋区常盤台4)などで行われた「工都展」で公開した「板橋火薬製造所跡」の史跡模型や理研板橋分所内部の間取りや設備がうかがえる立体模型も展示している。

 開館時間は9時30分~17時。入場無料。月曜休館。企画展は6月23日まで。

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