提供:日本大学医学部附属板橋病院 制作:板橋経済新聞編集部
日本大学医学部附属板橋病院の医療専門家が地域の皆さまに役立つ健康情報を発信。健康的な生活をサポートし、地域全体の健康状態の向上を図ることを目的としています。
今回は「甲状腺疾患」をテーマに、日本大学医学部附属板橋病院 腎臓高血圧内分泌内科の医師が、症状の見分け方から検査・治療、妊娠との関わり、日常生活の工夫までを分かりやすく解説します。

「疲れが取れない」「手が震える」「やけに暑がり/寒がりになった」「首元が腫れてきた気がする」
バラバラに見えるこれらの症状、ひとつの臓器=甲状腺で説明できることがあります。
甲状腺は首の前側の、のど仏の下にある小さな臓器で、体のエネルギー代謝を調整するホルモン(T3・T4)をつくっています。甲状腺は「全身の調律役」であり、自律神経、心臓の拍動、体温、腸の動き、筋肉や精神状態、皮膚・髪のコンディションにまで影響するため、異常が起こるとさまざまな不調が全身に現れます。



基本は血液検査でTSH(脳の下垂体から分泌され、甲状腺に働くことで甲状腺ホルモンの分泌を刺激するホルモン)、T4・T3(甲状腺ホルモン)、自己抗体などを測定します。甲状腺の触診でしこりや腫れを認める場合には甲状腺超音波(エコー)を行い、性状・大きさ・血流・腫瘍の有無を評価します。必要に応じて腫瘍に対して穿刺(せんし)吸引細胞診(細い針で細胞を採って顕微鏡で調べる)で診断を確定します。
妊娠・出産を考える女性にとって甲状腺はとても重要な臓器です。甲状腺ホルモンは母体の体調だけでなく、胎児の脳・神経の発達にも関わります。甲状腺機能低下症があると月経不順や排卵障害・不妊の原因になり、妊娠中の女性にとってはごく軽度の甲状腺機能低下症(潜在性甲状腺機能低下症)でも流産・早産のリスクを上げる可能性があるため注意が必要です。治療は不足分の甲状腺ホルモンを内服薬として補うだけで、適切に治療を行えば妊娠・出産は問題なく可能です。また、産後に一時的に甲状腺炎を発症することがあり、出産後数カ月で「動悸・不安・だるさ」などを自覚したら、育児疲れと自己判断せず病院を受診の上で血液検査をしていただくことが重要です。
生活の中で、自身で注意できることは以下の3点です。

甲状腺は「全身の調律役」。不調のサインは多彩で、気づかれにくい一方、検査はシンプルで治療方法も確立しています。原因不明の動悸やだるさ、体重変化、首の腫れなどに気づいたら、早めにご相談ください。正しく診断し治療を続ければ、問題なく日常の生活を送れます。その一歩が、今日の血液検査から始まります。
日本大学医学部附属板橋病院 腎臓・高血圧・内分泌内科 小林 洋輝

本プロジェクトは、高齢化社会において地域社会への健康情報の発信を通じて、地域全体の健康水準を向上させることを目的とした社会実装型の取り組みであり、これによりSDGsの達成に寄与することを目指しています。高齢者の増加に伴い、慢性疾患や生活習慣病が広がる中で、医療資源の圧迫と医療費の増大が深刻化している現状において、地域社会での健康増進と予防医療の推進が不可欠です。これにより、SDGsの目標である「全ての人に健康と福祉を」の達成に向けた具体的なアクションを展開することを目指しています。
(転載・取材に関するお問い合わせ先:med.kouhou@nihon-u.ac.jp)
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