板橋の和食店「直会(なおらい)」(板橋区大谷口北町)が2月3日、「お開きの会」最終日を迎えた。1月31日に閉店した同店は、地域の人や常連客へ感謝を伝えるため、2月1日から3日間、同会を開いていた。
店主の木村貴志さんはみこしを担ぐのが好きで、神事が終わった後にお供えした神饌(しんせん)やお神酒を頂く儀式の「直会」から店名を付けたという。「管理栄養士が作る料理」をうたい文句にしていた同店のお通しとして、だしを提供していた。だしの世界を子どもたちに知ってもらうため、近隣の上板橋第二小学校あいキッズ(小茂根1)でも教室を開いたことがあるという。
閉店は、木村さんが夢見たハワイへの移住が理由だという。数年前から移住の計画を立てていたものの、永住権(グリーンカード)の申請から取得までの時間が想像以上にかかった。3月には日本を離れる。
「お開きの会」最終日の2月3日、18時から店内は常連客をはじめ、元従業員や近隣の洋菓子店「LATERNE(ラティーネ)」(大谷口北町)店主の井上学(がく)さんらが駆け付け、終日、満席となった。
常連客から、「開店当初、せっかくのきれいな内装なのにハンガーが安物だったので、すぐに無印良品で買ってきてほしいと話した」「妻が入院中に、遠足の子どもに弁当を作ってあげなければいけない日があった。何と、朝6時に弁当を作って届けてくれたことがあった」など、木村さんとのエピソードが披露される度に店内には拍手が響いた。
さらに、他の常連客からも「永井先生」と慕われる常連客・永井雅人さんへ、ボトル100本の注文を記念する特製額が贈られた。小学校の教壇に40年以上立っていたという永井さんは記念品を受け取ると、「最初の1本目から(ボトルキープの)タグを保管していた」とタグを取り出して見せた。「実はここには99本分のタグしかない。跡を継ぐ息子に、思いと共に1本を預けてある」とほほ笑む。
この記念品をデザイナーの想馬孝介さんと共に制作したケイアート彫刻(大谷口北町)の川上智洋(ともひろ)さんは、小学校からの大親友。けんかで始まった出会いだったというが、数日後には川上さんから肩を組み、2人で帰った。その仲直りの瞬間を川上さん本人は覚えておらず、木村さんだけが脳裏に焼き付けていた。
そんな川上さんは「直会」オープン日の早朝まで開店の手伝いをしていたという。川上さんは「開店当初は、店を良くするために幾度となく意見をぶつけた」と話す。「ある日、『木村さんは変わっているからね』と話すと、本人は変わっているという自覚がなかったようだった。その言葉で吹っ切れたのかのように、その翌日から雰囲気や料理の質まで、別人のように変わった。その姿を見て彼を尊敬するまでになった」と振り返る。
木村さんは「何事も形にすることが全てだと思っていたが、ご縁という見えない形で皆さんと結ばれていることが本当の豊かさだと気付かせてもらえた。8年間の集大成のこの日、皆さんに感謝を伝えることができてうれしい」と締めくくった。