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【日大板橋病院からの健康情報】加齢と物忘れ-加齢による物忘れと認知症による物忘れの違い-

提供:日本大学医学部附属板橋病院 制作:板橋経済新聞編集部

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 日本大学医学部附属板橋病院の医療専門家が地域の皆さまに役立つ健康情報を発信。健康的な生活をサポートすることで、地域全体の健康状態の向上を図ることを目的としています。

 今回は「認知症」をテーマに、 日本大学医学部附属板橋病院 精神神経科の金森正先生に話をしていただきました。

はじめに

 最近、物忘れが増えたという心配は、どなたも持たれるであろうと思います。誰でも年を重ねるにつれて、名前が出てこなかったり、物の置き場所を忘れたりすることを経験します。物忘れは加齢でも起きる現象ですが、物忘れは認知症という病気の症状でもあります。どこからが「加齢による物忘れ」で、どこからが「認知症などを心配すべき物忘れ」なのかは専門医でも難しいテーマです。

加齢による脳機能や人格の変化とは

 まず知っておきたいのは、加齢に伴う脳の変化です。脳の容積は、80歳になると成人期の約90%に減少し、前頭葉の血流が低下します。知能の面では、新しいことを短時間に覚えておくような「流動性知能」は緩やかに低下します。一方で、知識や経験に基づく「結晶性知能」は比較的維持され、かつ老年期でも発展していきます。つまり、新しい情報の処理速度は遅くなっても、長年培った知恵や知識が保たれることでバランスを取っています。昔から「知恵袋」という表現がありますが、「年齢を重ねても、知恵袋で補うことができる」のです。

 記憶にも種類があります。「最近あった出来事」を記憶する近時記憶(エピソード記憶)は加齢で低下しやすいのですが、「昔の出来事の記憶」である遠隔記憶や「すでに身についた一般的知識」である意味記憶は維持される傾向にあります。そのため、昔の思い出はよく覚えているのに、「さっき何をしようとしたか忘れた」という状態が、加齢により起こることが多いです。

 加齢による人柄の変化、すなわち人格変化についても興味深い研究があります。一般的に、年を取ると「不安や心配などが募る傾向」や「社交的で人付き合いを求める傾向」は低下します。一方、「誠実性」や「協調性」は目立ってくる傾向があります。このように加齢によって穏やかな人格になることが多いですが、もともとの人柄がより際立つこともあります。ただし、この人柄の変化は個人差が大きく、未解明な点が大きいです。

「心配な」物忘れとは?

 心配すべき物忘れには、どういった特徴があるでしょうか。一つの大事な兆候としては、認知症の物忘れは、自分が物忘れをしていると自覚しなくなることです。加齢による物忘れの場合は、「忘れている」ことを自覚していることが多いです。これに対して、認知症の物忘れは物忘れの自覚がなくなり、周囲の人がむしろ心配することが多く見られます。また、加齢による物忘れは日常生活へ大きな支障を起こすことはまれですが、認知症による物忘れは日常生活に重大な支障を引き起こします。同時に、認知症による物忘れは加齢変化とは異なる人格変化を伴うことがあり、家族や周囲の人を困惑させ、負担になることもしばしば見られます。

物忘れについての検査や診断は?

 物忘れの診断では、精神科的面接、心理検査、画像検査が「三本柱」となります。まず、専門医の面談により、物忘れの経過、日常生活への支障の有無を確認します。これには、1時間~1時間30分の面談が複数回必要になることが多いです。次に、心理検査で、物忘れの程度や性質を客観的に把握します。Mini-Mental State Examinationなどで認知機能を客観的に評価する検査が主に行われますが、物忘れの性状に合わせて、さまざまな心理検査が行われます。画像検査は、主に脳の形態や機能を調べる検査で、脳の萎縮や脳の血流低下を評価します。これらの「三本柱」で認知症の「病型」を含めた評価を行います。

 認知症の「病型」にはさまざまな種類がありますが、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症および前頭側頭型認知症の4つが「4大認知症」となります。アルツハイマー型認知症は最も多い病型で、年単位でゆっくりと進行する記憶障害が特徴で、徐々に判断力や言語能力が低下していきます。血管性認知症は、脳梗塞や脳出血が原因となり、発症が突然で、階段状に進行するのが特徴です。レビー小体型認知症は、物忘れに加え、鮮明な幻視と手の震えや体の硬さといったパーキンソン症状を伴うのが特徴的です。前頭側頭型認知症は、初期には記憶障害が目立たないものの、人格変化や逸脱行動が目立つことが特徴です。

認知症状の治療

 認知症の治療には、薬物療法と非薬物療法があります。ここでは、認知症の中のアルツハイマー型認知症について述べます。アルツハイマー型認知症の薬物療法は、抗認知症薬と呼ばれるアセチルコリンエステラーゼ阻害薬と抗NMDA受容体拮抗(きっこう)薬という経口薬を用いるのが一般的でした。これらの薬剤は、症状の進行を遅らせる効果が期待されていましたが、アルツハイマー型認知症による脳の変化そのものに作用する薬ではありませんでした。2023年12月から、アルツハイマー型認知症の原因の一部であると考えられている、アミロイドというたんぱく質に対して作用するモノクローナル抗体薬の投与が始まっています。この薬は点滴で投与し、初期のアルツハイマー型認知症に対して使用した場合、アルツハイマー型認知症による脳の変化を遅らせる効果が期待されています。しかし、アルツハイマー型認知症の初期に開始する必要があること、投与施設が限られることや脳のむくみや小さな出血といった副作用への対策といった問題が残っています。

 非薬物療法としては、昔の記憶をグループで話し合う回想や音楽療法、作業療法があります。同時に、認知症の方の生活環境を整えることも重要であり、過ごす環境を慣れ親しんだ安心できるものに整え、痛みや不眠などへの対策も同時並行で行います。認知症の治療では、家族のサポートも欠かせません。デイサービスや福祉用具の貸与など介護保険を活用し、地域包括支援センターやケアマネジャーへの相談が円滑になるよう援助していきます。同時に、ショートステイの利用などを通じて、介護者自身の心身の健康を維持することも重要です。

 認知症になりえる危険因子についても対応が必要です。いくつかの危険因子は、生活習慣を改善することで予防できることがあります。高血圧、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病の予防や適切な管理は、認知症の危険因子を緩和することにつながります。また、喫煙や過度な飲酒を止め、バランスの取れた食事を取り、適度な運動や知的活動を続けて社会参加を継続することは、認知症の予防として一定の役割があります。

まとめ

 加齢による物忘れは誰にでも起こる自然な現象です。しかし、物忘れの自覚が乏しくなり、日常生活に支障をきたす場合は認知症の可能性を考え、早めに専門医に相談することが大切です。また、良好な生活習慣を維持し社会とのつながりを保つことが、認知機能の低下予防に役立つ可能性があります。「年のせいだから」と片付けず、物忘れが心配になる場合は、かかりつけ医や地域の相談窓口、物忘れ外来に相談してみてください。

日本大学医学部附属板橋病院 精神神経科 金森正先生

日大板橋病院とローカルメディアと連携し、地域に健康情報を発信して地域の健康を支える!
「日大地域健康広報プロジェクト」

本プロジェクトは、高齢化社会において地域社会への健康情報の発信を通じて、地域全体の健康水準を向上させることを目的とした社会実装型の取り組みであり、これによりSDGsの達成に寄与することを目指しています。高齢者の増加に伴い、慢性疾患や生活習慣病が広がる中で、医療資源の圧迫と医療費の増大が深刻化している現状において、地域社会での健康増進と予防医療の推進が不可欠です。これにより、SDGsの目標である「全ての人に健康と福祉を」の達成に向けた具体的なアクションを展開することを目指しています。

(転載・取材に関するお問い合わせ先:med.kouhou@nihon-u.ac.jp

※お届けしている健康情報は一般的な知識の提供を目的としており、診断や治療を目的としたものではありません。健康に関する具体的な相談は、必ず医師や専門家にご相談ください。

☆日大板橋病院からのお知らせ☆

<講演情報>
・6月21日(土)に令和7年度第1回市民公開講座を開催いたします!
詳細は以下のURLからご参照ください。
https://www.itabashi.med.nihon-u.ac.jp/news/post/1240

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申込締切は6月27日(金)までとなっておりますので、参加をご希望の方は、TEL:03-3972-8111(内線7360・7361・7362)までお問合せください。

<メディア情報>
・日大板橋病院 救命救急センター 山口 順子先生が、日本大学藝術学部が制作するラジオ番組、病院を聴くラジオ『anatato(あなたと)』に出演しました!
詳細は以下のURLからご参照ください。
https://www.itabashi.med.nihon-u.ac.jp/news/post/1242

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