提供:日本大学医学部附属板橋病院 制作:板橋経済新聞編集部
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今回は「ワクチン」をテーマに、 日本大学医学部附属板橋病院 小児科・新生児科の岡橋彩先生に話をしていただきました。
子どもたちが接種するワクチンはたくさんあり、どんな種類があるのか、いつ接種したらいいのか、など複雑です。さらに、毎年のように変更点があり、母子手帳は妊娠成立後に入手しますので、お子さんの出生後には既に内容が変わっていることもあります。最近は大きな変更が続きましたので、4点ご紹介します。
2024年4月に定期接種として新登場したワクチンです。5種混合ワクチン(DPT-IPV-Hib)は、ジフテリア+百日咳(ぜき)+破傷風+ポリオ+ヘモフィルスインフルエンザ桿(かん)菌に対するワクチンです。3月までは4種混合ワクチンの注射とヒブワクチンの注射をを、それぞれ別々に行っていましたが、この2つが研究によって混合され、新たに発売されました。生後2カ月で接種を始め、20~56日(3~8週)空けて3回接種します。4回目は6カ月以上の間隔を空けて、18カ月までに追加接種します。注射針で刺される回数が計8回から4回に減らすことができ、効果や副反応は大きく変わりません。接種する方法が増え、これまで皮下接種のみでしたが、世界水準に沿って、筋肉内注射も可能になりました。筋肉内接種では、局所のはれや赤み、しこりが皮下接種より起こりにくくなります。
注意事項としては、定期接種で使用できるワクチンはゴービックとクイントバックの2種類があり、原則として違う種類を接種することはできません。複数回接種するので、接種する医療機関を変える際には母子手帳を見て、どちらを使っているか確認し、医療機関に取り扱いがあるかどうかを確認しましょう。市区町村によっては、これまで4種混合ワクチンを接種したことのあるお子さまは、原則として5種に変更できないことがあります。希望する場合は地域の健康福祉センターに問い合わせていただき、5種混合ワクチンの予診票を取り寄せいただくと確実です。
ちなみに、2種混合ワクチン(DTワクチン)はジフテリア+破傷風混合トキソイドで、定期接種年齢は11歳以上13歳未満です。3種混合ワクチン(DPTワクチン)はジフテリア+破傷風+百日咳で、百日咳を予防するためには就学前(5~6歳)に追加接種やDTワクチン定期接種の代わりに任意接種することが可能です。ニュージーランドでは百日咳が大流行し、2024年11月に、乳児予防接種(生後6週、3カ月、5カ月、4歳)と、11歳での追加予防接種が推奨され、45歳以上の成人は1回無料のブースターを、65歳以上であれば無料で接種しています。百日咳は生後間もない赤ちゃんが罹患(りかん)した場合、命の危険にさらされます。そのため、アメリカやヨーロッパなどでは10年以上前から妊婦への3種混合ワクチン(Tdapティーダップ:10歳以上用三種混合ワクチン、日本では独立行政法人医薬品医療機器総合機構による金銭的補償救済の対象外)が行われています。出生後に赤ちゃんと密に接する母親が百日咳に罹患することの予防だけではなく、妊娠中の接種で母体の胎盤を通して抗体が赤ちゃんに移行し、出生後もしばらくの間、赤ちゃんを守る効果があります。
肺炎球菌には93種以上の血清型があり、重篤化を予防するためにワクチンには複数の血清型を含むものが開発されています。これまで乳幼児定期接種として13価肺炎球菌ワクチン(プレベナー13)が使用されていましたが、2024年4月に15価肺炎球菌ワクチン(バクニュバンス)が登場し、10月には20価肺炎球菌ワクチン(プレベナー20)に変更になりました。肺炎、中耳炎、細菌性髄膜炎等の原因型の多くをカバーすることができるため、20価ワクチンが主流となっていきます。肺炎球菌ワクチンは5種混合ワクチンと同じ接種間隔のため、同時接種するとスムーズです。また、筋肉内注射も可能です。
注意点はバクニュバンスとプレベナー20のそれぞれ違う種類を接種することは原則できないことです。複数回接種するので、接種する医療機関を変える際には母子手帳をみてどちらを使用しているか確認し、医療機関に取り扱いがあるか確認しましょう。
1歳と就学前(5~6歳)の2回接種するワクチンです。任意接種で、板橋区では1歳での接種に加え、2024年9月から就学前の接種にも公費補助の支給が始まりました。1回につき3,000円の補助が支給されます。おたふくかぜは後天性難聴の原因であり、学童期にかかりやすい病気です。就学前の定期接種に麻しん風しんワクチンがありますが、おたふくかぜワクチンも済ませましょう。同時接種も可能です。
ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンは子宮頸がん予防ワクチンのことです。子宮頸(けい)がんだけでなく、中咽頭がん、肛門がんの予防効果も認められ、男性にも接種が認可されました。小学校6年生の4月1日から高校1年生の3月31日までは任意接種の費用が全額助成され、無料で接種できます。助成を受けるには専用の予診票が必要ですので、事前に区に申請し、予診票を受け取って、男子のHPVワクチン(ガーダシル)を予約しましょう。1回目接種から2カ月以上(最短で1カ月以上)あけて2回目、2回目接種から標準的には4カ月以上(最短で3カ月以上)あけて3回目を接種します。
注意点としては、現在日本では、男性に対する接種は、サーバリックス(2価ワクチン)とシルガード9(9価ワクチン)は適応症にはなく、ガーダシル(4価ワクチン)のみということです。
ワクチン接種は、免疫パワーで菌やウイルスなどの病原体に対して4つの効果が出ます。感染予防「うつらない」、発症予防「かからない」、重症化予防「わるくならない」、伝染予防「うつさない」、という効果で、合併症や後遺症、周囲への伝染を考えるとワクチンで予防することはこどもたちを守る大切な行動です。
日本大学医学部附属板橋病院 小児科・新生児科 岡橋彩先生
本プロジェクトは,高齢化社会において地域社会への健康情報の発信を通じて,地域全体の健康水準を向上させることを目的とした社会実装型の取り組みであり,これによりSDGsの達成に寄与することを目指しています。高齢者の増加に伴い,慢性疾患や生活習慣病が広がる中で,医療資源の圧迫と医療費の増大が深刻化している現状において,地域社会での健康増進と予防医療の推進が不可欠です。これにより,SDGsの目標である「すべての人に健康と福祉を」の達成に向けた具体的なアクションを展開することを目指しています。
(転載・取材に関するお問い合わせ先:med.kouhou@nihon-u.ac.jp)