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なぜ高学年が通いたくなるのか? 主体性が育つ自分の居場所-全国から注目を集める板橋区・上四小あいキッズ

 高学年になるほど放課後の居場所から足が遠のいていく――そんな一般的な風景とは少し違う放課後が、板橋区立上板橋第四小学校(板橋区上板橋1)にはある。校内にある「あいキッズ」は、就労などにより日中に保護者が不在となる家庭の児童を対象とする「放課後児童クラブ」と、全児童を対象とする「放課後子ども教室」を一体的に運営する施設。上四小あいキッズには、上級生になっても「行きたい」と足を運ぶ子どもたちの姿が見られる。ここは「行きなさい」と言われて通う場所ではなく、児童自身が主体的に選び、放課後を過ごす場。その取り組みは注目を集め、全国の自治体や教育関係者などから視察も相次いでいる。

 なぜ上四小のあいキッズは、高学年の子どもたちも自然と通い続けるのか。あいキッズを運営するNPO法人「放課後NPOアフタースクール」マネジャーの押塚岳大(たけひろ)さんと板橋区教育委員会事務局地域教育力推進課長の高木翔平さんに、その魅力を聞いた。

数字が示す上四小あいキッズの利用率

 「あいキッズ」とは、Itabashiの頭文字である「I(あい)」に「キッズ」を組み合わせた、板橋区の放課後対策事業の愛称で、「板橋の子どもたち」という意味が込められている。区内の全学年の平均利用率が31.8%であるのに対して、上四小では41.8%と高い利用率を誇り、1日当たり140~160人が利用している。あいキッズの利用者は1~2年生が中心で、高学年になると利用が減るのが一般的だが、上四小あいキッズは利用者の約3分の1が4~6年生。
(参考:板橋区教育委員会事務局提供「あいキッズの学年別利用について」(2025年4月現在))

主体性が育つ多彩なプログラムを通じて「好き」を見つける


(写真提供=放課後NPOアフタースクール)

 放課後は、犯罪が起こりやすい時間帯とされる一方、公園遊びなどが制限され、子どもたちが自由に過ごせる場所が減っている地域も少なくない。そうした環境の中で、「放課後の体験格差は、子どもたちの自己肯定感に影響する」と話すのが、放課後NPOアフタースクールの押塚さん。あいキッズは、子どもたちにとって安心して過ごせる居場所であると同時に、多様な体験を通して自分の好きや得意に出合える場所として機能している。

 定期プログラムでは、体を動かす活動から文化的な活動まで、幅広い内容を用意している。上四小あいキッズの大きな特徴の一つが「地域を巻き込む力」。例えば、地域のフットサルやドッジボールのチーム、習字教室から講師を招いたり、プロのイラストレーターや絵本の読み聞かせ団体に協力を呼びかけたりするなど、地域の人々と連携した取り組みを行っている。こうした地域とのつながりによって、多様で本格的なプログラムを実現。これらのプログラムを通して、子どもたちは自分の「好き」に出合うきっかけを得ている。

子ども発の企画「こどもキカク」


(写真提供=放課後NPOアフタースクール)

 大切にしているのは子どもたちの声。「こどもキカク」と呼ばれる取り組みでは、子どもたち自身が「やってみたい」という思いから企画を形にするまでのプロセスを経験する。企画書を子どもたちが作成し、ポスターなどで周知。自分でやり遂げるという経験が自信につながり、学校で発表できるようになった児童もいるという。他にも、あいキッズでの過ごし方から広がり、学校生活にも良い効果が見られた事例もあるという。

バレー部誕生の裏にあった一人の子どもの変化

 
(写真提供=放課後NPOアフタースクール)

 印象的だったのが、バレー部が発足したきっかけ。ある高学年の男子児童は当初、「あいキッズはつまらない、行きたくない」と日々を持て余していた。しかし丁寧に話を聞くうちに、バレーボールが大好きなことが分かった。そこから、「じゃあ、バレー部を作ろう」と活動が生まれた。夢中になれる場と、仲間とのチームワークの中で、彼の毎日は生き生きとしていった。「みんな絶対いいところがある」と押塚さんは話す。

一人一人への丁寧な観察と学校との密な連携

 一つの教室を担任が一人で見る学校とは異なり、あいキッズはスタッフが多く、子どもの「見逃されがちな得意」に気づきやすい。例えば、月1回行われる定例ミーティング。そこでは、配慮が必要な児童について学校側と情報共有し、より良い対応につなげている。授業でつまずきがある児童も、自由に過ごせるあいキッズの環境の中では、うまくいくこともあり、その様子について学校側に伝えている。授業や学校生活での過ごし方が放課後に共有されることで、相互に関わり方を検討したり、見えていなかった長所や課題が共有されたりとメリットは大きい。


(写真提供=放課後NPOアフタースクール)

子ども目線の環境づくり

 活動の場では、子どもたちが安心して参加できるよう工夫を随所に施す。例えば、入り口を入ってすぐの黒板には時計、絵カード、大きな文字のスケジュールを貼り出している。1年生や文字が苦手な児童にも分かりやすいよう、イラスト入りで表示している。


(写真提供=放課後NPOアフタースクール)

 その下には、「気持ちの温度計」のポスターがあり、気持ちの言語化をサポート。感情が爆発しそうな時や、うまく言葉で説明できない時に活用されているという。その近くには、センサリートイやイヤーマフを置き、感覚に過敏さがあっても外部からの刺激を和らげて落ち着きたい時に使えるようになっている。


(写真提供=放課後NPOアフタースクール)

(写真提供=放課後NPOアフタースクール)

 クールダウンのための部屋も一角に用意し、自由に入ることができる。こうした配置や工夫は、実践の中で何度も見直しや改善を重ねながら、現在の形に落ち着いたという。

あいキッズに求められる柔軟さ

 板橋区では、2028年度に「あいキッズ20周年」を迎える。全ての小学校の敷地内にあるという板橋区のあいキッズの強みを生かして、2026年度から新たに「朝の居場所」「不登校児の居場所」としてのあいキッズ室を活用した新たな事業が検討されている。共働き世帯が増えるなか、「登校時間前に安全に過ごせる場所がない」「学校に行きづらい子どもが安心して過ごせる居場所がほしい」といったニーズが高まっている。そこで、あいキッズ室を有効に活用することで、こうした社会課題の一部を解決する手だてになるのではないかと期待されている。

 板橋区教育委員会事務局地域教育力推進課長の高木さんは「あいキッズが学校の敷地内にあるメリットを最大限に生かして、それぞれの家庭や子どもたちのニーズに応えられたら」と話す。

今も未来も幸せに生きるために


(写真提供=放課後NPOアフタースクール)

 上板橋第四小学校のあいキッズが目指すのは、「今の幸せを我慢して未来の幸せを得る」のではなく、「今も、未来も、どちらも幸せにする放課後」。そのために、環境づくり、企画づくり、関わり方の全てがデザインされている。単に放課後を過ごす場所という概念を超えた、子どもが自分らしくいられる、先端の教育の場としての取り組みが行われている。

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