
「そだててつくろう かみいたねプロジェクト」の「かみいたね持ち寄りパーティー」が5月24日、上板橋駅南口の「7のひろば」で行われた。主催はかみいたグリーンファンド。同プロジェクトは昨年7月の種配りに始まり、近隣住民や協力者たちで成長をシェアしてきた。
緑でいっぱいの憩いの場となる駅前広場のイメージ図(提供=板橋区)
当日は、多くのまちづくりや空間設計を手掛けている田中元子さんと上板橋駅南口駅前広場などの設計を手がける渡邉竜一さんによるトークライブも開催。渡邉さんは、当初は駅直結の歩道橋の設計に関わっていたが、現在は駅前広場の設計にも携わっている。上板橋の街を歩いているときに、庭先に植物を植えている人がたくさんいるので、住民に育ててもらうことを思い付き、同プロジェクトにつながったという。
コロナ禍で事業が停滞したことをきっかけに、渡邉さんを含む数人の有志が、上板南口銀座商店街の縁日「7の日」でワークショップ「かってにかみいた南未来会議」を開き、通りかかった住民たちと、まちのことを一緒に考え始めた。「まちづくりは多数決ではなく、いい意見というのは少数の中にもある。『7の日』に参加したときに何げない言葉の中からアイデアが生まれ、どうやってそれを実現しようかと考えていった」と振り返る。行政から説明するだけではなく、「こうなったらいいよね」という空気が、まちを作る際にはとても大事なことだという。
さまざまなまちづくりに関わってきた田中さんは「駅前でこのようなイベントを実現させるために応援してくれる行政がいるというのは、奇跡的なこと。市民参加というとマンパワー的な要素や建前で行われることが多いが、全然そういうところがないことに共感した。非日常を作るより日常のボトムアップが大事だから、ここもそんな風になれば」と期待を込める。
田中さんが、工事区域の壁面に貼ってある「かみいた人物図鑑」のことに触れると、渡邉さんは「再開発とは直接関係ないが、まちのことを知りたいという思いから。まちづくりに関連した場では会えない人もいる。普段会うことがない人に全然違う事柄で届けて、そこを入り口として、自分のまちを知ってもらうことは大事だという経験があった。『人』を見てもらうために作った」と経緯を説明。
田中さんは「まちは一つ。でも人はたくさんいる。誰にでも完璧なまちというのはない。賛成と反対の意見が会議室の中であったとしても、おしゃべりしたり、ごはんを食べたりというコミュニケーションを通して、100%の理想じゃなくても自分が納得できる部分が増えていくことがある。今回のプロジェクトは、そういうところに挑戦していると感じる」と話し、渡邊さんは「『あんなことをやって何になるんだ』と言われることはあるが、どこかで伝わる瞬間がくる。目に見えない形でものすごく効果がある」と続ける。「かみいた人物図鑑」についても、テレビで放送されたことにより周りの反応が変わり、そこからポスター以外でも、さまざまなことがちょっとずつ伝わっていっているのを感じているという。
渡邉さんは「活動が義務になってしまうとよくない。まちの人にふらっと会えるという場所で、「これは私が植えた植物で」というような話や活動が思い思いにできると、自分も使っていい場所なんだという感じが出ると思う」と話し、田中さんは「今、渡邉さんがやっていることは、自分の場所として積極的に関わってほしいという思いが強い。だから出来上がってからの日常の中でも、いろいろな関わり方、参加の仕方があるという継続性の高いプロジェクト」と締めた。
トークライブ後は、参加者によるプランターへの苗の植え付けを行った。自分で種から育てた苗を持参した参加者は「芽が出ると愛着が湧く」「数年前に上板橋に引っ越してきたが、このプロジェクトに参加することで、自分の住民としての意識も強くなった」と話す。用意された苗には、将来の駅前広場の植栽をイメージしたもの、華やかなものや、ローズマリーなど後々使っていけるものもあった。
苗の植え付け後には懇親会を行い、「かみいた人物図鑑」のポスターのモデルの一人である宮本健一さんのラベルのビールも披露。参加者は手作りハーブティーなどと共に会話を楽しんでいた。
板橋区まちづくり推進室地区整備課長の板橋慎寛(のりひろ)さんは「ハード整備と違って、このようなソフト面での取り組みは、成果を明確に数値化することは難しいが、区民の皆さま、地域住民の皆さまの目線に立ち、どれだけ共感を呼び、ワクワクしたものにできるかは、まちづくりが目指すべきもの。ぜひ共感の輪を広げていきたい」と意気込みを見せた。